天邪鬼

2話

「どうした、折角俺が並んでやったていうのに、食わねえのか?」
こいつってば変わりすぎだよ。
でも何だか懐かしくって、今だけはこの雰囲気に浸っているのも悪くないかもしれない。

ハンバーガー食べるのも上品に見えるってどういう事なのだろう。
高瀬の長い指がハンバーガーを口に運ぶ。
ちょいと離れた席のお姉さん方が高瀬の事をじっと見つめていた。
ハンバーガー食べてる姿が色っぽい男なんて高瀬くらいなもんだろう。
そんな事を考えていたせいだからか、焦点がずれて目の前の高瀬の顔がぼやけて見えた。

何かが近づいてくるなぁなんて思ったら。
口元にしっかりと指の感触。
高瀬のしなやかな指先が、私の口元を拭った。

えっ

一瞬の事で言葉が続かない。
私の視線は高瀬の指先に集中していた。
赤くなった高瀬の指先はゆっくりと高瀬の口元へ。
鋭い視線を私に向けたまま
チロっと舌を出し、私に見せつけるようにゆっくりと指をしゃぶった。

きっと私からは
ボッっと音がしたに違いない。

久し振りのマックだったというのに、先程の女子高生の会話と高瀬のせいで私の調子は狂いっぱなし。
そんな私にお構いなく帰りの車では見事にいつもの高瀬に戻っていた。

社に戻り、狂った私の調子は戻らないまま終業時刻。
何だかどっと疲れた。
目の前には嫌味な程澄ました顔の高瀬。

「このまま帰りますか?」
それはいつものセリフ。

「ちょっと飲みたい気分かも、久し振りにあそこ行く?」
口が滑ったというかなんと言うか……やばっと思った時には口にしていた。

「それは決定事項ですか?」
フッと軽い笑いが入ったのうを見逃さなかった。

「間違いました。一人でゆっくり飲みたいから高瀬は帰って」
返事を待たずにショルダーバックを手に取ると、高瀬の脇を通りすぎた。

「付き合ってやるよ」

その言葉に私の足はピタッと止まる。
会社の中では決して発した事がないその物言い。
さっきのマックでだってうん年ぶりに聞いたというのに。

――結構です――
そう言いたいのに、私の口からは
「勝手にすれば」
そんな言葉が出てしまった。
本当に今日の私はおかしい。