天邪鬼

5話
重みで程良く沈んだベット。
私は今しがたのこいつの話をゆっくりと回想した。

今、私の本当の気持ちって言った?
一瞬で血の気が引いたかのよう。
心の中の言葉が口から溢れだした。

「嘘っ」

不敵な笑みを浮かべながら、間髪いれずに
「嘘なんかじゃねえよ、はっきり聞いたぜ」
と、そう言って背中を向けた龍太郎。
身体を揺らして、みるけれど頭痛が邪魔して身体が上手に動かせなかった。

「じゃあさ、あれも覚えてないの?」

「あれって?」
あれって何よ、勿体ぶってないで教えなさいって。
私は口に出さずに、目の前の大きな背中に爪を立てた。

「あれって、あれだよ。黒くて大きくって硬い奴」

結構な衝撃だった。私ってそんな事まで話していたんだ……

「折角答えを教えてやったのに」
意地悪そうな言い方に、いらつきを覚えるも私の頭の中は、先程まで私の太ももにあたっていたこいつのそれを想像して、違うな、昔、散々って何考えているんだ私ってば。

「春日が今何を考えて、どんな顔しているのか手に取るように分かるよ」
背中を向けながらこいつは勝ち誇ったように言い放った。
妙に照れくさくて私は小学生のような発言をしてしまった。
「すけべ」と。言ったそばから後悔してる。

「何がすけべなんだ? 想像力たくましいお前の方がよっぽどすけべだ」
な、なんですと私が? それならとまた小学生のような応戦をしてしまった。
「変態」言ってしまった言葉に更に後悔。

「それはお前だろ」

ほんとに覚えてないんだ。

その言葉は落胆の色を隠せない龍太郎の呟きだった。

「俺はその話を聞いて『欲求不満だろ』そう言ったんだ」
未だに背中を向けながらぽつりと話しだした龍太郎。
私は黙ってその言葉の続きを待った。

「お前言ったんだ。『あんた意外だったら他の誰でも欲求不満のままだ』ってね。時分から言ったんだよお前は。俺以外と付き合ってもセックスしてもつまらないって」

「そんな事、言ってない」
動揺しまくりだ。

「答え知りたくないのか?」
突然話を変えられた。

「はっ?」

「だから、さっきの黒くて」

不意打ちだった。
急にこちらに向きなおした龍太郎。
がっちりと肩を掴まれたと思ったら、私の右手をそのまま掴んで足の付け根へと導かれる。
バスローブの肌蹴たそこには、これでもかと上を向いた彼の一部が。
黒いってのは分からないが、大きくて、硬いのはお前が良く知っているよな。

私は咄嗟に手を引っ込める。
そんな事したって……

「さっきと展開が違うんだけど。まぁいいや。答えは『かりんとう』だ。今流行りの『げんこつかりんとう』お前知らないんだってな」

かりんとう……
黒くて、大きくて、硬くって、見ているだけで涎が垂れて。
言われてみれば納得だった。

「春日」
名前を呼ばれていちいち反応してしまう自分が恨めしい。
私の右手にはさっきの感触が生生と残っていたから。

「今日、サボるか」
続けて出た言葉に、今の状態を把握する。
咄嗟に時計を見た。
外国の豪華な壁掛け時計。
自分はバーの並びにあるスウィートルームに居る事を認識した。
あんまりの状況にすっかり忘れていた事だった。

今の時間は朝の5時。今帰れば十分仕事には間に合うはず。
「帰るわよ」
強気な私が顔を出した。

「どうせだったら、こっから会社に行くって手もあるんだが」
そんな事しないって分ている癖に、ほんとにこいつは嫌味な奴だ。

勢いで立ち上がろうもんなら、きっと倒れてしまうのではないかというほどの二日酔い。
ほんとだったら後悔するところだろうけども、もしかして良かったのかもしれない。
隣で余裕をかます龍太郎を見てそう思った。

「そうだ、お前のその頭が治ったら覚悟しとけよ」
耳元で囁かれた言葉に、体中で喜びを感じる。
私だって、今すぐにでも。
だけど、それは言ってあげない。

「覚えているかな?」
そう言ってあげた。

「忘れないよ、お前は」
不敵に笑うこいつにちょっと恐怖を感じた。