電車通学

友達思い

今日はとうとう日曜日。
結局私は桜を断る事も出来ずに、今待ち合わせの駅前にいる。

あーぁちょっと憂鬱だな、なんて思いながらも待ち合わせの10分前に来ている私が恨めしい。
どうも桜の押しの強さには負けてしまう、眼鏡君の話なしだったら楽しい事間違いないけど。

時計を見るともう待ち合わせ時間とうに過ぎている。
後10分待って来なかったら帰ってやるんだから!な〜んて出来っこないくせに自分で自分に突っ込んでみる。

アスファルトをつま先で軽くつついた。
これが眼鏡君との待ち合わせだったら、何時間でも待っちゃうかも、きっとそんな時間も楽しみなんだろうな。
そんな事を思った自分に苦笑した。ありっこないか、と。

視線を上げると駅の階段から大きな荷物を持った桜が見えた。
あんた何処に行くんですか?って位の荷物だった。

「ごめん、ごめん。姉貴の車をあてにしてたら急に姉貴に電話掛かって着ちゃってさぁ。」
荷物を道路に置き、両手を合わせて上目遣いに私をみていた。

そんな桜の顔に毒気を抜かれて家へと向かう。
既に待ち合わせの時刻から40分も経っていた。

さっきの顔は何処へやら、やたら上機嫌の桜。
それに比べて私の顔は・・・

もう明日の朝へと気持ちが向いていて何とも複雑な心境だった。

家に着いてしまった。
「ただいまーお母さん、桜来たよ〜」

「お邪魔します。突然すみません。」
ぺこりと頭を下げる桜。

「いらっしゃい、待ってたわよ。」
私とは対象的にニコニコ顔の母さんだった。

私の部屋に入ると大きなスポーツバックから制服を取り出しハンガーにかけた。
後でアイロン貸してね!なんて言葉を添えて。
バックからは出てくる出てくる、パジャマにはじまりゲームやお菓子、それにちゃんと教科書も。よくもまあこんなに持ってきたもんだよ。

「私と背変わらないんだから、パジャマくらい貸したのに。それにお菓子だって」

「そう思ったんだけどね。泊まるの久し振りで気合入っちゃったよ。何しろ姉貴あてにしてたし」
そういって、ぺロッと舌をだした。相変わらず上機嫌な桜だった。

「まだ早いから、ぶらっと遊びに行こうか?」

「了解!」

桜の返事にほっとする。
こうして、出掛けてないといつ質問攻めになるか解らないからね。

駅前のショッピングモールは日曜の午後という事で人が溢れていた。
一番人気のアイス屋さんで行列に並び、20分並びアイスを食べた。

「うん、これなら20分並んでも食べたいって思っちゃうねぇ」

「本当、そう思う!」

美味しいアイスを食べて顔も綻んだ。

ウインドウショッピングも十分楽しんで家に戻ってくると、母さんは夕飯の用意をしていた。
桜はすかさず
「手伝います。」
とお母さんの横に並び玉ねぎの皮を剥き出した。
桜は手馴れたもので今度は手際よく母さんの指示に従って包丁をさばいている。

私はというと、お皿を並べたり、お箸を出したり、そのうちすることも無くなって紅茶を飲みだした。

お母さんは”郁ったら”と呆れ顔だ。
これ以上ここにいたら何を言われるか、たまったもんじゃない。

「私、アイロンかけてくる!」
と桜をおいて2階へ上がってしまった。

夕飯の支度が整い始めると、
「今日はゆっくり話すのでしょ?先にお風呂に入ってきちゃった方がいいんじゃない?」
との母さんの言葉に頷いた。

2人共さっぱりした後、美味しく夕飯を食べた。
その最中姉貴が帰ってきて一緒になったのだが、初対面だというのにとても気の合ったようで私をそっちのけで話出す2人。私もできればそっちの方が嬉しかった。

このまま姉貴の部屋で寝てもらってもいいんだけど・・・なんて思ってみるも。
夕飯が終わると私の部屋に戻ってきて、私の心配をよそにゲームをしたり学校の話をしたりでその日だけでなく、月曜の朝まで眼鏡君の話は一切でてこなかった。
私の緊張はなんだったのだろう?でも本番はこれからだ。

母さんに駅まで送ってもらい改札をくぐる。
私はいつもの場所に桜と並ぶと何だかドキドキしてきた。

「本当にここでいいんでしょうね。」
疑いの眼差しの桜。

「毎日ここで乗ってるよ。」
嘘はついていない。ただ正面の位置じゃないけどね。

自転車通学の桜は嬉しそうだった。
ただ、持っているバックが異様に大きく家出している人みたいに見えることは内緒ね。

程なくすると電車がやってきた。
桜はすかさず反対のホームよりのドア付近に移動した。
私はというとそのまた反対のドア付近に、恥ずかしくて近くにいられなかった。

そして、3つ目の駅のホームに。
その頃、桜はというと
じーっとホームを見ていた。

”少し茶色の髪にスラーっとした眼鏡君ね”


電車がゆっくり動き出すと目の前に学ランを着た2人組の男の子が。
いた!こいつかぁ。
眼鏡君を見ていたら目が合った!私は

「またね」
と口パクをして彼を見送った。
いい男じゃん。
満足気に微笑む桜であった。