電車通学

その後の彼

「おい、圭吾何がおかしいんだ?」
放課後、真治に声を掛けられた。
また彼女を思い出して笑ってしまった。

「今日さぁ」
そこまで言ってまたおかしさが込みあがってきた。

お前怪しい奴だぞ。
といった後、真治は何事か?といった顔でまた俺の顔を覗き込んだ。

だって、おかしすぎるんだよ。
最近こんな笑ったのはいつなんだ?と言うくらい平穏な日々だったからなおさらの事。
不思議そうな顔をする真治に事の次第を話して聞かせた。

「へぇーそれは俺も見たかったな。なんせ普段あんまり表情を出さないお前のつぼに嵌るなんて貴重だぜ。」
真治は自転車通学だからそれは無理ってもんだ。

そんな朝の出来事が強烈すぎて、今日は好きな小説もあまり進まなかったほどだ。

そしてあくる朝、俺はいつものように駅のホームに立っていた。
向いのホームに電車が入ってきた。
ざっと見渡してみたが、やっぱりというか彼女の姿は見られなかった。

昨日最後にばっちり目があったからな。
あの時も凄い顔してたし。
笑われてるのに気がついたか?

昨日まではそれほど思わなかったが、自分で思っているいる以上に楽しみにしている自分に気づいた。

そんな日が何日も続いた。
俺は毎日向いの電車を見渡すのが習慣になってしまった。

今日もいなかった。
印象が強烈なだけに何となく寂しい感じがした。
名前も知らない子なのに。

「よう、その後セーラーちゃんは見つけられたか?」
真治がニヤっと笑っている。
近くにいた女子が
”セーラーちゃん?”
と言っているのが聞こえた。

何か怪しい響きじゃねえか!

「真治、そのセーラーちゃんっていうのだけは止めてくれ。」
と懇願した。

「だって名前も解らないんだぜ、他に言いようがねぇじゃねえか。」

「だから、言ってくれなくて結構だ。」
ちょっとムっとしてまた本に目を落とした。

「気になってるんだろ?俺が捜すの手伝ってやろうか?」
こいつ面白がってるだろ。いつもの半分以下に細めた目で俺を見ている。

実際、気にはなっているのだが正直そこまでか?と聞かれたらそうではない――と思う。
それに、彼女が誰かわかったところで何をどうするということもないのだから。
俺は丁重にお断りした。

「つまんねえの。」
やっぱり、俺で遊びたかったのか。
俺は読んでいた本で真治の頭を小突いてやった。