電車通学

わかってる?2
さっきから、時計が気になって仕方が無い。ん?まだ、10分しか経ってないじゃん。
ベットに寝転んで、漫画をペラペラと捲ってみるけれど、ちっとも読んだきがしない。

――いつもよりバイト早く終わるから、今日会えないかな?――
圭吾君からそんなメールが届いたのは、昼休みが終わる頃だった。
昨日も一昨日も圭吾君のバイトが入って無かったにも関わらず、私の方が体育祭やら文化祭の打ち合わせで、会えなかったんだ。今日は圭吾君バイトなんだよなぁ、なんて思っていたところにこのメール。これが嬉しくないはずなくって、即行返信しちゃったよ。

――了解です、いつものところで待っているね――
って。本当だったらハートマークまで入れたいところだけれど、やっぱり何だか恥ずかしくって。さっきまで、憂鬱だった放課後が待ち遠しくて仕方が無くなったんだ。

そして学校をダッシュで飛び出して、圭吾君のバイトが終わるのを待っているところ。
お気に入りのTシャツを引っ張り出して、この前買ったばかりのジーンズに着替えたら、後はやる事が無くって、何を焦って帰ってきたのか自分でも良く分からなかったりするけれどいてもたっても居られなかったんだよ。駅前まで行っていてもいいんだけれど、そうしたらまた、圭吾君のバイト姿を見たくなってしまいそうだし。前回の一件もあるから、バイト先にはあれから行っていなかったりする私。桜には、心配し過ぎだよって言われたばっかりだったする。

だってかっこよすぎでしょ圭吾君ってば
あの少し唇をあげて笑う圭吾君を思い浮かべてしまって、全身がかーっと熱くなってしまった怪しい私。もう一度漫画に視線を戻してみる、どのページにもかっこいい男の子に可愛い女の子。私もこんな風に可愛かったら、心配なんてする事ないんだろう、自分で言っててちょっと虚しい。三角関係のお話とかも前は普通に読めたのに、今はちょっと胸が痛くなったりするのは、自分に重ねてしまうからなんだよね、意味無く感傷的になってしまったり。

ふーっと大きなため息をついてしまった。
漫画を見て思い出した。そう言えば、昨日決まった、体育祭の応援団の話をすっかり忘れていた。従兄の龍太兄ちゃんってまだ学ラン持っているかな? 今年卒業したばかりだからあるといいんだけれど、って電話をしなくちゃだった。
どうしてまあ、こんな暑い時期に学ランを着なくちゃいけないのかが分からない。
只でさえ暑いっていうのに、冬服だなんて、拷問に等しいんじゃないだろうか。
おっと、電話、電話。えいっとベットから起き上がり、ちらりと時計を見上げた。やっぱりあんまり進んでいないよ。

久し振りに掛ける従兄弟の家、電話にでたのは母さんに似て、異様にテンションの高い恵理子おばちゃんだった。

「久し振りだね、元気だった?」
の声をかわきりに、おばちゃんは、機関銃のように話し始めた。私が相槌を打つと次から次へと話が変わって、息つく間も無いほど。ひとしきり話し終えたおばちゃんが、思い出したかのように

「郁ちゃん、何か用だった?」
なんて、気がつくの少し遅くないだろうか。でも母さんのお姉さんだからそれも有りかとやっとこ本題に移れた事にほっとしたよ。

「あのね、龍君の高校の時の制服ってまだ有る?」

「制服って?」
事の経緯を話さずいきなり、そんな事を言い出した私もいかがなものだろう、応援団になってしまった事をおばさんに説明した。

「郁ちゃんらしいね、あみだで当っちゃったのね」
何だかツボだったらしく、ケラケラと笑いだしてしまった。
ヤバイ、このパターンは折角の本題がすれていってしまう前兆かもしれないと察した私は

「もしかして、もう無かったりしてます?」
自分から聞いてみた。

「どうだろう、龍太に聞いてみないと。後で電話させようか?」

「じゃあ、お願いします」

と電話を切った。何時話してもパワフルな人だよ。何だか圧倒されてしまった。
何気に時計に目をやると、何ですと! 1時間半も話しこんでいたなんて。殆ど恵理子おばちゃんの声ばっかりだったけれどね。
でもこれで、時間を潰せたかもと思ったりして。よし、出発だ。
いつもだったら、自転車の駅への道。少しでも一緒にいたくってわざと自転車を置いていっているって知られたら呆れられちゃうかな。といってもバレバレかもしれないけれど。
歩き出した足がいつの間にか、スキップなんかしている私。心と一緒に足も弾みたいんだよ、きっと。

駅を挟んだ反対側の商店街は、いつも賑やかだったりする。地元の高校へいった子達が、ふらふらしている姿もちらほら。実を言うとこの前の待ち合わせの時よっちゃんを見かけたんだけど妙に恥ずかしくって声を掛けられなかったんだ、ごめんよよっちゃん友達がいの無い奴で。

今日は誰にも会う事なく、いつもの場所に到着。
ガードレールに腰かけて、圭吾君が歩いてくる方向をじっと見つめた。
まだ、ガンガンに頑張っている日差。座ったからなのか額から汗がどーっと出てきた。
背中にもじとっと汗が。私もしかして汗臭くなったりしていないかな? 両肩を鼻に近づけて思わず匂いを嗅いでしまった。……これくらいなら大丈夫かな?
微妙なとこだ。ハンカチでペタペタと汗を拭いて慰めになるかわからないけれど、自分をちょっと仰いでみたりして。
そろそろかな? 携帯で時間をチェックしてドキドキが復活。
ほら、時間ぴったり。向こうから圭吾君がやってきた。
「お疲れ様」
自然と頬が緩んじゃうんだよね。ってこの顔を見て普通にしている人を探す方が難しいと思う。それに……今日はなんで? 急いでくれたのか普段がそうなのか分からないけれど、シャツのボタンが一つ嵌ってないんですけれど。
お陰で圭吾君の鎖骨がちらりと……ちょっとやばくないですか?
無性に照れてしまって、変な汗まで出てきちゃう。お陰で喉が、乾いてしまって仕方がないよ。何か今変な事を口走ったかも私。圭吾君は堪えてくれたけれど、どうも鎖骨に視線が行ってしまいそうでまともに顔を見れないって。そして前を向いた私にアイス屋の行列。
確かに喉は乾いているけれど、そんなにもの欲しそうな顔しえいたのかな?
って、私圭吾君に手を引かれている。手までじっとっと汗が噴き出しているのがよくわかる。
ドキドキが爆発しそうで、恥ずかしくって嬉しくって。行列に並んでも圭吾君の手は離れる事なくって。ちょっとだけ桜の言葉が頭を過った。自信持ちなって言ってくれたあの言葉。
そんな事を考えていたら、私達の順番がやってきた。お金を払う時に圭吾君の手が離れてしまった。あんまりドキドキしすぎたからちょっとだけホットしたり。だって本当に心臓が爆破しそうだったから。未だにこんなにドキドキするなんて、私ってほんとうに圭吾君の事好きなんだなぁって。
あんなに楽しみだった時間も、あっという間に過ぎていってしまう。
圭吾君と一緒にいると時間がたつのが早すぎだよ。アイスを食べて、他愛もない話をして。
今日ももうすぐ帰らなくてはなんだね。圭吾君に送って貰っていつもの公園。
って圭吾君、眉間に皺が寄ってるよ。何? 何が起きた?
さっきまでは、笑いながら話をしていたはずなのに。
その後も、圭吾君の眉間の皺は無くならないまま、別れてしまった。
最後にまたねって言ってくれたけれど……

胸につかえたような感じのまま、自分のベットにダイブした。
すると、携帯にメールの着信音。この曲は圭吾君だ。
恐る恐る携帯を開いた。そこには一言

――さっきの話、俺のじゃ駄目かな?――

俺のじゃ駄目かな? ってもしかして、もしかする?
それって、学生服の話?
ボッと顔に火がついたかと思った。頭の中も沸騰しているみたい。

圭吾君、分かっているのかな。
私、ドキドキが激しすぎて倒れそうそうだよ。そりゃ一瞬考えたよ決まった時、圭吾くんにって。
でも、でも。

本当に倒れそうです。