7歩の距離

気になる人は

一時間目の休み時間何かいわれるかと構えてもみたが、今日子はいつもと変わらずで。その後の休み時間も昼休みも何も聞かれなかった。下校時間も近づきほっとしていると、今日子の手が肩に。
にっこり笑って
「今日、うち来るよね」と。
きっと私の顔は引きつっていたと思う。
その日の学校から帰ったら、今日子の家に遊びに行った。といか遊びに行かされたと言った方が正解かもしれないな。

「ちゃんと宿題もやってくるのよ〜」とのお母さんの大きな声に見送られた。
今日子の家は私の家より学校寄りに5分程歩いたところにあるの。学校からの帰り道にあるから、雨が降ったときなどは、遊ぶ予定がなくても雨宿りをさせてもらうことがあったりする。

今日子のお母さんは手作りのお菓子がとっても上手で今日子が羨ましいなっていつも思ってるんだ。今日は何があるかとっても楽しみだわ。初めこそ今日子に何を話せばいいのかなんて考えていたけれど、お菓子の事を考えはじめたらすっかりそんなことを忘れてしまった。
あっという間に今日子の家に着いた。

「杏ちゃんいらっしゃい。今日は紅茶のクッキーを焼いたの。後で持っていくから先に宿題やっちゃってね。」うちのお母さんとはえらい違いだ。ってこんなこといったらおこられちゃうね。
「お邪魔します。今日子のお母さんのお菓子楽しみです。ささっと宿題やりますね」

「ありがと。じゃあ頑張ってね」そういって今日子のお母さんは台所へ戻っていった。
やっぱいいよな今日子のお母さんなんて思いながら頬を緩ませていたら

「待ってたよ」意味深な笑いをした今日子が立っていた。
なんだか背中に悪寒がはしったのは気のせいなんだろうか?
今日子の部屋に入るなり「さてと、聞かせてもらいましょうか?」と。

えっいきなりですかぁ。「まずは宿題しちゃおうよ。その後ゆっくりさぁ」言った瞬間まずいって思った。

すかざず「そうだね、先に宿題した方が、ゆーっくりお話し聞けるもんね」と。

悪魔だ。やっぱり聞き逃してはくれないのね。
私はかばんから今日の宿題をだして早速はじめた。いつもだったらここでその日に学校であった楽しい話をするはずなのに、今日は無言だよ。かりかり鉛筆の音だけがする。ふと目の前の今日子をみると、にやりと笑ってこちらを向いていて目が合ってしまった。そんなこんなで宿題も終わってしまった。
話の途中で邪魔がはいるのは嫌だと、お菓子を取りにまで行く今日子。今日子ってこんな性格だっけ?
「さてと、これで準備は大丈夫。話してくれるよね」
私は返事をする代わりに頷いた。
「杏って好きな子いないって言ってなかったっけ?最近好きな人が出来たとか?」
「そんな感じ。かな?」
「もしかして、私に話づらいとか?ひょっとして……相原君なの?」
私は思っても見ない方向へ話が飛んで思わず食べ始めたクッキーを噴いてしまった。
「杏、大丈夫?動揺するっていうことはやっぱり……」
私は慌てて首を横に振ったよ。これでもかっ、って。その時ぽきぽきって首の骨が鳴ったくらいにね。
その時今日子は安心したように、1つ息を吐いた。
「杏ってさ、うちのクラスでは1番相原君と話するじゃない?もしかしてそうなのかな?と思った事があるんだ。でも私が好きだって知っているから言い出せないのかな?って何か私もドキドキしちゃったよ。ごめんね」
そう言うと、さっきの悪魔は何処へやら天使の微笑みで「聞くよ」と一言。
今日子と隼人は一緒に遊んだ事が何回かあるから、顔も知ってるし、上手に話せるか解らないけど話してみようと思ったんだ。
人のことや他の事は結構何でもはっきり言う私が自分の事となると案外臆病なのが今回はっきりわかってしまった。自分でも驚いたよ。
さっきも言ったように今日子と隼人は一緒に遊んだ事もあるし、幼稚園までずっと一緒にいたお向かいさんの幼馴染という事も話してある。
今日子に両親達が出掛ける時に、一緒に夕飯を食べている事、何がきっかけか解らないけど、急に距離を感じ始めたこと、距離を感じ始めてから隼人の事が気になって気になって仕方がないこと。そして、今日教室でバレンタインの話をした時に、チョコをあげに行った時に理由を聞こうと思いついた事を話した。
「そっかぁそれはちょっと落ち込むね、でも杏の言った通り、隼人君に聞くのが一番だと思うよ。何か誤解があるかもしれないし。頑張るんだよ」そして今日子は私の頭に手を置いて励ますかのように、ぽんぽんと撫でてくれた。
「それで、今年もやっぱりチロルチョコなの?」
にやっと笑う今日子はやっぱり悪魔かもしれない?!

それは2月12日の晩だった。
突然お姉ちゃんが部屋にやってきた。
来るのが突然なら話す事も突然だ。
「杏さ、私と和弥の事、気がついてるでしょう。」
私は正直に頷いた。そして咄嗟に口に出した。
「でも私、誰にも言ってないよ。お父さんにもお母さんにも。」
「それはわかるって、だってあの人達にばれたら黙っていられるはずがないし、こんなに静かにしてないでしょう。」
「じゃあなんで私が気がついてるってわかったの?」
「週末だよ。だって前はもっとゲームやろうって煩いくらいだったのに、特に隼人が来なくなってからは、随分あっさりとゲームもやめて自分の部屋に引き上げるからさ。和弥ともこりゃばれてるねって」
そうだったんだ。
「それでお姉ちゃんの話って?それを言いに来たんじゃないでしょ。」
流石、妹と言ってお姉ちゃんは話しだした。
要するにこうだ。
クラスメートの友達に2月になったらスキーに行こうと誘われたらしい、いつもは家族だけで行くのだが、たまにはお友達も誘ったらと。お姉ちゃんは2つ返事で了解した。日付を指定されたのではなく、2月の第二金曜の晩に出て土曜は泊まって日曜日に帰ってくると。友達の親にも挨拶までしたのに、今年の第二土曜日は2月の14日だったと言うわけ。
だから和にいに私からお姉ちゃんのチョコを渡して欲しいとのことだ。私としては、金曜日にあげてもいいんじゃないかと思うけど、お姉ちゃん曰くバレンタインは2月14日と譲らなかった。和にいもお姉ちゃんから貰ったほうが嬉しいと思うのだけどな。とどめはこうだ。
「どうせ隼人にあげるんでしょ!同じ家に行くんだったらいいじゃない。」と
これを断ったら後で何を言われるか、たまったもんじゃあない!お姉ちゃんには逆らわない方が良さそうだと考えた私は、しぶしぶその可愛くラッピングされた、いかにも手作りというチョコを受け取った。
「サンキュー杏。やっぱ持つべきものは可愛い妹だね。ちゃんとお土産買ってきてあげるからね」なんて言われたけれど。
このチョコのおかげで私はどんなに辛い時間を過ごす事になろうとは全く思いもしなかったんだ。