7歩の距離

姉と兄そして母?

「ただいまー」
足掛け3日のスキーから帰ってきた。

「お帰りあら早かったのね。どうだった、楽しかったの?」
お母さんが洗濯物を取り込みながら普通に話し掛けてきた?
おかしい、あのお母さんのテンションが低くない?
取り敢えず旅行の報告をした。
本当だったら直ぐに駆け寄ってくる杏もいない。
いつも私が帰ってくると、どうだった?って質問攻めにしてくるのに……
お母さんもにこにこしながら話を聞いてるけど、どこかいつもと違うのよね。
思い切って聞いてみた。
「杏は?」
お母さんはちょっと困った顔をした。
「そうなのよ。昨日は朝から杏と2人でチョコなんか作ってね、ランチもしたし、とっても楽しかったのに、夕方お向かいさんところ行った後から部屋に篭っちゃって出てこないのよ。何かあったのかしら?」
普段おちゃらけている分、真面目そうな顔の母をみると事の重大さが解るような気がする。
ランチに行ったってところが少しひっかかるけど、今はそんな事を言っている場合じゃないわね。“そうなんだ”と相槌をし、和弥に聞くのが一番だと考えた私は
「お向かい行って来る」と家を後にした。

どうしてこうなっちゃうのかな?天井をみつめながら、昨日の事を思い出していた。
隼人が杏を好きなのは確認済みだった。それに杏も。はたから見れば誰が見たって両想いって解ってるのに、本人同士はわかってない。まあ俺も人のことは言えなかったけど。そんな2人を見ていた葉月と俺は一肌脱ごうと計画を立てた訳だが、どういうわけだか、上手くいかない。気まずくなっていてきっとチョコだって渡さないかもと考えた俺達は杏が家に来るようにしむけたり、でもタイミングが悪かった。あの子に罪はないんだけど……玄関先で俺と杏を見た時のあの顔、凄い顔で睨んでたよなぁ。杏は頑張ってチョコをあげようとしていたっていうのに、本当に間の悪い奴だ。その後、何度話かけても返事さえもしやしないからどうしようもない。
きっと頑張って作ったんだろう杏のチョコ。俺にくれたチョコはトランプのマークをかたどった可愛らしいもので5つ入っていた。
俺からは受け取らないとわかっていたから、その中から1つだけハートのマークのチョコを隼人に渡して欲しいと母さんに頼んでみたものの、あいつ食べたのかな? なんて思いふけっていたら
「こんにちは。和弥いるー」
葉月の声がした。帰ってきたんだな。
「あら、葉月ちゃんいらっしゃい。和弥なら部屋にいるわよ」
とでかい母さんの声の後
「おじゃましまーす」というやいなや、階段を駆け上がるもの凄い音と共に葉月がやってきた。
「和弥ただいま」
そういうと俺に飛びついてきた葉月。
いきなりの事に思わずよろけてしまったが、3日振りに会う葉月に嬉しくなって抱きしめようと腕をあげた瞬間
「どういう事になってるの!」
甘い雰囲気はあっと言う間になくなった。
俺としては、お帰り、チョコ美味しかったよとなるはずだったが、それさえも言わせてくれない勢いだ。
仕方なく、昨日の事を出来るだけ詳しく話してみた。
黙って聞いていた葉月は少し考えた後
「そっか、そんな事になっていたんだ。杏にライバル登場ってわけね。でもそれだけで隼人はそんなに機嫌悪くなるのかな?」
と言った。
言われてみればそれもそうだ。他の子からチョコを貰ったのを見られただけで、そんなにも機嫌が悪くなるものだろうか? でも俺達は、隼人は杏が俺を好きだなんて勘違いをしているって事は思いつきもしなかった。
結局、俺達は周りがどうこうしても返ってややこしくなりそうだということで、何もせずにそっと見守ることにしたんだ。
隼人の話をし終えた後、やっと言えた。
「お帰り、チョコとっても美味しかったよ」

「杏、入ってもいい?」
母さんが部屋をノックした。
本当は誰にも会いたくないっていうのが本音だけどいつまでもそんな事してられないし、私はベットから立ち上がりドアを開けた。
「あらあら、凄い顔になっているわよ。折角可愛い顔で産んであげたのにもったいない」
そういって私の顔をなでてくれた。
お母さんには私の気持ちばれちゃったんだななんて思ったときにはもう遅い。
「隼人君と何かあったのね」そういってお母さんはベットに座った私の隣に並んで腰掛けた。
「……何だか嫌われちゃったみたいなんだよね。もう良く解らないんだよ」
正直に自分の気持ちを話してみた。こんな事をお姉ちゃんじゃなくてお母さんに話すなんて自分でも吃驚だった。半分ちゃかされるかな?と思ったけど全く違った。茶化す訳でもなくちゃんと話をしてくれた。
「杏は隼人君が好きなのね」
私は頷いた。
「普段近くに居すぎるから良く解らないことってあるわよね。好きになるっていってもいろいろな好きがあると思うのよ。杏はまだ小学生だから、これからいろいろな好きを知っていくと思うのね。中学へ、高校へ大学や社会にでたり、沢山の人達に出会うでしょ?そうして好きの違いを感じていくものなのよ。運命なんていうとちょっと大げさかもしれないけど、自分の相手はどこかにいるはずよ。それは隼人君かもしれないし、他の人かもしれない。でもその人が隼人君だとしたら、回り道をしても絶対一緒になれる時がくると思うわ。今はきっと少し回り道をする時なのかもね。周りをみてごらんなさい。何か違うものがみえてくるかもよ」
お母さんはそういって立ち上がった。
「そうそうお父さんがすねてたわよ。杏がチョコくれなかったーって。顔を洗って飛びっきりの笑顔で渡してあげなさい。来月のホワイトデーにはあの駅前の洋服屋さん連れてってもらえるかもよ」
ウインクをしながら部屋を出て行くお母さんはいつものお母さんだった。
はっきりいってお母さんの話は今一、ピントくるものではなく、何が言いたかったのかは解ったような解らなかったような。まあ隼人の事で落ち込むのはやめて元気をだせってことなのかなと自分で解釈をしてみた。
お母さんの言った通り顔を洗って、用意していたチョコをお父さんにあげたんだ。
お父さんは何で私が落ち込んでいたのかはわからなかったみたいで、何かあったらお父さんに相談するんだよって、頭をぽんぽんってしてくれた。少し元気がでてきたかな。
隼人の事は凄くきになるけど、きっと昨日あれじゃ話できるって感じではないなって思った。暫く、朝起きた時窓の向こうをみるのは辛いけど、時間がたてばまたいつもみたいに話しができるって信じて少しだけ隼人から距離を置いてみようと思った。何か違うものが見えてくるかもしれないしね。好きって気持ちはなくならないけど。
「ただいまー」
お姉ちゃんが帰ってきた。
「お帰りーって、スキーに行ってたんじゃないの?」
お姉ちゃんは何も持っていなかった。
「杏ってば、さっき帰ってきたんだよ、それなのに杏部屋から出てこないし、今はお向かいにおみやげ渡しに行ってきたんだよ。杏にも買ってきたからね」
そうなんだ全然気がつかなかったよ。それだけ自分の世界に浸っていたのね私ってば。
お姉ちゃんに何か聞かれるかな?と思ったけど予想に反してお姉ちゃんは隼人との事何も聞かれなかったよ。きっと和にいから何か聞いたんだろうな。
「チョコ渡してくれてありがとね」と頭をぽんぽんってされた。
何だかここ最近これをされる時が多いなあ。それだけ頑張れって事なのね。
気持ちを新たに頑張るぞって思ったよ。