ポーカーフェイス

5話
「なんで?」

ってお前ここでそれを言うか普通。
だけど、それはこいつの照れ隠し。耳まで真っ赤になった顔がそれを物語っている。
ここで、逃げたら一生後悔する。恥ずかしいなんて言ってる場合じゃない。唇に感じたこいつのぬくもりを保ったまま、一気に言いきった。




「好きだから、誰にも渡したくなかったから、お前じゃなきゃ駄目だから」
これでもかって程見つめてやった。もう後には引けない。




「な、な、何を言い出すんだよ――――じょ、冗談にも程が、あ……るっ……」
段々と小さくなる声。思いっきり動揺してるのが良く解る。

脈あるよな。

そうとなったら押すだけだ。ここで逃がしてなるものか。ここまでくるのに何年かかったと思ってるんだ。


「お前が好きだって言ってるんだよ――――俺じゃ駄目なんて言わせない」



無意識の行動だった。気がついたらまたこいつの唇に自分の唇を押し当てていた。
驚いた顔そのままに目を見開いているこいつに、少しだけ唇を離して
「こういう時は目を瞑るんだよ」
そう言ってやった。
何か言えば、すぐ突っかかってくるこいつは予想に反して、否、予想通り素直に目を閉じた。
長いまつげがバサッと揺れた。
ごくりと菜月が唾を飲み込むのがダイレクトに伝わった。
再び、押しつけた唇。身体の中心から波が押し寄せてくるような感覚。
こいつ同様、俺も喉を鳴らした。
本当だったらこのシチュエーション。押し倒したくなるのが男ってもんだろう。
だってここはベットの上ときたもんだ。
だけど、今日の今日でそれはやりすぎだろと、自分の中にあるはずの自制心を探して彷徨った。
これ以上続けたら本当におさまらなくなるといったところまで、唇を堪能したのち、鼻先に一つ、首すじに一つ、唇を落としてこいつの後頭部にあてた手を下ろした。

まつげがゆっくりと上がり、俺を見上げたこいつ。頬は紅潮して、目はとろんとしていて。
折角見つけた自制心を吹っ飛ばすつもりなのだろうか?

「俺にしておけ」
命令口調の俺の言葉に、ストンと頭を下げたこいつ。思わずガッツポーズしそうになるのを抑えるのが必至だった。駄目なんだよ、ちゃんと言霊を取らないと。

「返事は?」
再び目を伏せて、暫しの沈黙。時間にしたら数秒のこの間合いが長く感じる事と言ったら無かった。
自信はあるが、万が一という不安もある。
こいつは俯いたまま、一つ大きな息を吐くと、今度は真直ぐに俺を見据えて。

「仕方ないから、俺様にしておいてあげる」
とニカっと笑った。

「仕方ないからね」
これもこいつらしい。その後はそっけないって言うか何て言うか。

「私、続き読みたいから」
とベットに放りだした漫画をむんずと掴むと、今度は寝っ転がらずに壁に背をあててページを捲り始めた。解っているってそれがこいつの照れ隠しだって。捲るスピード早すぎだっつうの。
だけど、それは突っ込まないでやった。湿った唇は少しだけ腫れぼったくって。勿体ない気もするが右手の甲で口を拭った。これから先、いつだって出来るからなと。

それから数時間。マジかよっていうくらい本に没頭するこいつ。
話し掛けないでオーラを身に纏ったまま時間が過ぎた。おかげで俺もこいつも読破しそうな勢いだ。
さっきと違うのは、俺の背中にこいつの背中があるっていうこと。
ドクンドクンと早なるそれは、俺の鼓動かこいつの鼓動か。
きっと、2人同じスピードなのかもしれない。

気がつけば、窓の外は夕日に照らされている。
外は雪化粧。丁度斜めに差した陽の光が乱反射しているようだ。

今日のところはこれまでか。
明日からは冬休み。とことん付き合ってもらうから。
読み終えた漫画を閉じると、まだくっついている背中越しに話しかけた。

「メルアド教えて」
高校に入ってから持った携帯。何時ぞや会った時に番号は教えあったもののメルアドは交換していなかった。何でなのかは忘れたけれど。
当然、教えてくれると思った俺に軽い衝撃が走った。

「明日でいい?」と。

は? 何で明日なんだ?
こいつの携帯だって赤外線入ってるだろうに。何だか無性に気になるじゃねぇか。
視線の先には充電器に置かれたこいつの携帯。もしや、誰かの写真が待ち受けになってるのか?
不安が押し寄せてくる。軽い衝撃だったものが、そんな妄想をしてしまったが最後大きな衝撃へと早変わりだ。

「今じゃ駄目な理由って何?」
言いながら、なんて俺様なんだと一瞬過るがここで聞かないと眠れなそうだ。

たいした事じゃないんだけど……

だったら尚更、今じゃ駄目な理由を聞かせろって。
言葉には出さないがきっとそんな顔をしてるに違いない俺。

「あー本当に嫌だ」
そう叫んだこいつは充電器から携帯を持ち上げると、パタリと開いた。ちらっと覗くとそこにはシンプルな壁紙があるだけで。余計に混乱する俺。

「笑うなよ」
そう言い放って俺の携帯に近づけたこいつの携帯。
2人同時に、赤外線のボタンを押した。

笑うって何を? そう思った次の瞬間。目の前に飛び込んできたこいつのアドレス。
natsukiと綴られた英字の後に見慣れた4桁の数字。
それは紛れも無く、俺の誕生日だったりする訳で。

「なるほどね。仕方ないから付き合ってくれた菜月さん」
ニヤケた顔は元に戻る事なんて出来なくって。

「だから、明日って言ったのに」
背中を向けてしまったけれど、真っ赤な耳は隠れてない。

やっぱサンタっているかもしれない。違った意味で眠れなくなりそうだと思った。