ずっと

小さな小箱

さっきから、時計が気になって仕方が無い。
そう、今日は同窓会の当日。
萌子とはあれっきり会話をしていない。
梅雨明け間近のこの季節にしては珍しい、爽やかな午後だった。

洗濯も終えた、掃除も終えた。
私は、ソファにどっぷりと沈み、時計を気にしながら雑誌を捲る。
乾いた指で一枚、一枚ページを捲るも、雑誌は全く用をなさない。雑誌の向こうを見越して目に移るのはあの頃の私達の姿なのだ。

そういえば……思い出してしまったあの存在。もう何年も目にした事はなかったあれ。
私は雑誌を閉じ、開かずの扉とかした納戸の扉を久し振りに開けた。
目指すは、小さな小箱。
捨てられなかった。捨てる事なんて出来なかった。

存在自体を封印していたにもかかわらず、ちゃんとその場所を覚えている私に苦笑する。
納戸の奥に置いたプラスティックケース、その一番下に眠っている丁寧にバンダナに包まれたその小箱。

そっと取り出し、ゆっくりと蓋を開くと、少しくすんだシルバーリング。

――19歳の誕生日に、シルバーリングをプレゼントされると幸せになれるんだって――

シンプルだけど、ごめんねなんて、この小箱を差し出してくれた貴方の顔は今でもはっきりと思い出せる。
真ん中には私の誕生石のエメラルドが小さいながらも光っていた。

台座から外し、そっと指に嵌めてみる。あの頃は親の手前恥ずかしくって右の薬指にはめていたっけ。そんな事を思い出しながら指を通すと――。
あの頃から倍の年月を過ごしてしまった私の指には無理があったようで、第2関節のところでつかえてしまう。

…………

左手は? 太くなったと自覚した自分の右手を一睨みして、恐る恐る左手の薬指に嵌めて見る事に。

うっ、あともうちょっと……やっぱり引っかかってしまう第2関節。だけど、さっきより良い感じなのよ。これさえ入れば――。

ちょっとの痛みに目を瞑り、小さく息を吸い込んで、エイっと声を掛けると同時に、押し込める指に力を入れた。

スポっと、指輪が薬指に嵌った。
幸いな事に、関節が難関だったにも関わらず、辛うじてだけど指におさまるシルバーリング。

手を高く掲げ、久し振りのその感触に自然と顔が緩んでしまう。
暫く、自分の左手を眺めてしまった。


そしてその存在に満足し、再び指から抜こうとしたけれど、どうやって入ったのか不思議な程、いくら頑張っても、抜けてくれる事は無かった。
どうするのよ私。しかも左手の薬指。

浮かれた自分が一気に冷めていくのを感じた。
緩いカーブを描いたシルバーリング。デザインがシンプルなだけにおかしくは無いけれど、小さく光るその石が、この歳にしては、少しね……。
あの頃の彼にごめんねと、くるりと指輪を回して石を内側にしてみる。

うん、こうすれば大丈夫かもしれない。
っていったい何が? 訳のわからない一人つっこみをいれながら、また時計に目をやった。
同窓会の開始まであと20分。

ふーっと大きなため息をついて、左手を握りしめた。