電車通学

なんで!

いつもと同じ朝の通学風景。

自転車を漕いで駅に行き
改札を通り
いつもと同じ場所に立って電車を待つ

同じ時間に同じ電車に乗るのだからホームに立つ人も大体見知った顔で。

競馬新聞片手に真剣に考えこむサラリーマン
ブレザーを着崩し、IPodを聞いている高校生の男の子
必要以上に髪の毛を指先でもて遊ぶ女子高生

そして私

でもそれは電車に乗った事で、いつもと同じでは無くなってしまった。
途中までは同じだったのに

いつのも車両に乗り込むと、私は彼を知る前のように車両の中程まで進もうとして、ふと気がつく違和感が

私の定位置であるその場所がすっぽり空いていた。
周りを見渡してみるも他はいつもと変わらぬ混み具合

不思議だな?と違和感を感じたらそこで止まれば良かったものの私はいつもの場所に立ってしまった。

そして、直ぐにその原因が解ってしまった。
私の隣に立っているこの年配の女性の香水が

きついのなんのって!!

只でさえ蒸し暑い車両の中、この場に居るのは拷問に近かった。
でも小心者の私はその場から動けるはずもなく。
必死に息を殺して立っていたのだけれども、とうとう限界がきてしまった。
強烈なにおいに耐え切れず

「すみません!降りますー」
と頑張って乗っていた電車を降りる事に。

あまりにも強烈なダメージをおってしまった為、電車に乗って彼を気になりだしてから、初めて彼の事を考えなかったのだが。
私が降りた駅は

そう3つ目の停車駅だった。

電車を降りて、すぐさま大きく息を吸い込んだ。
ちょっとだけ胸のムカムカは治まったけど、まだ電車に戻れるほど回復せず、次の電車に乗る乗客達を押し分けてホームの先のベンチへと向かった。
やっとそこで見知った風景に出会ったわけでして、私は咄嗟に彼の立つホームに目を向けた。
其処には、私の一番見たくなかった光景が。

いつもは一人で立っている彼の隣に、ブレザーを着た女の子がいた。
正確に言うと彼の隣ではなく、彼の腕に腕を絡ませて・・・
彼はいつもの事なのだろうか、絡んだ腕は気にもしないようで片手で本を持ち、いつものように本を読んでいた。
本に隠れて彼の表情までは見えなかったけど。

やっぱりなぁ。

彼女いたんだ。

折角、復活しそうだった私の胸のムカムカは先程より増したようで、学校に行く気も失せてしまった。
このまま家に帰ろう、そう思ったのだけど家に帰るには反対のホームに行かなくてはならない訳で。
仕方なしに、彼の電車が行った次の電車に乗って帰ろうと決めた。
その時間は10分といったところだろうか?その間には電車に乗る位には復活しているだろうから。
私は彼の前から避けるように彼の前を通らず遠回りをしつつ階段を上がる事に、最後に彼を見ようと、少しだけ首を捻るとその瞬間彼が顔をこちらに向けた?

彼はするっと彼女の腕から自分の腕を外すと、パタンと本を閉じ歩きだした?!
もしかして、こっちに来る?
そんな事は無いと思いつつも私は急いで階段を上がり、慌ててトイレに駆け込んだ。
胸のムカムカとドキドキで変な気分だよ。

そんな私に怪訝そうな顔をするOL。
何でもありませんよ、といった顔で(出来たかどうかはわからないけど)鏡の前に立った。

気分が悪いせいか、青い顔をしてる。
そのうち、電車のアナウンスが聞こえ、彼の乗る電車が発車したのがわかった。

そういえば、何で私は逃げるようにここに来たんだろう?
悪い事はしていないし、ましてや彼がこちらに来るとも限らないじゃないの!
変なドキドキが増したせいで、いつの間にか胸のムカムカは落ち着いていた。

息を整え、もう一度大きく深呼吸した。
これなら電車に乗っても大丈夫そうかな・・・

胸のムカムカは治まってきたのだけれど、今度は急に胸が苦しくなってきた。

失恋しちゃったのかな。
ってまだ恋してたわけじゃないけど。

他の子と一緒にいる姿はもうみたくなかった。
明日からは1本早い電車にしなくちゃだな。

そう思いながらトイレをでたら

「見つけた」

一瞬で身体が熱くなった。
間違える筈が無い、この声。
夢にまでみたこの声。
振り返ると、トイレの脇の壁に寄りかかって、はにかんだ笑顔を見せる眼鏡君がいた。

一瞬、時が止まったように思えた。