電車通学

なんでだ!

結局のところどうすればよいのか解らなかったのだが。
もしかして電車を変えてしまったかもと思い、いつもより1本早い電車の時間から彼女を待つ事にした。

もしかしたらの期待を込めて。
よくよく考えてみたら、反対のホームにいるのだから見つけたとしても何が出来るという訳でもなく、ただ彼女が見れるというだけだったのだが俺はそんなことも気がつかなかった。

いつもの場所に立つと、そこは何ヶ月前までの風景で。
大事な事を俺は忘れていた。

この時間はあいつがいるんだった。
案の定

「圭吾ーっ。やっと見つけた。会いたかったよ〜。」

涼子だった、上総涼子。
所謂元カノだ。
中学の同級生で、半年程付き合っていた。

2年間アタックされ続け、押しに負け付き合いはじめたのだが、自由奔放な彼女には随分と振り回された。
楽しくなかったわけではないが、何か違うといつも感じていた。
卒業をきに、俺から別れ話をした。

涼子はあっさり
「いいよ。付き合えただけでも嬉しかったから、別れてあげる。でも私諦めないから、自信あるもん。絶対圭吾は私のところに戻ってくるって。だから少しの間自由に恋愛するといいよ。きっと私の良さが解るはずだから。」
とにっこり笑って帰っていった。

すんなり別れられたのはホッとしたのだが、正直ちょっと怖かった。
卒業しても使う駅が一緒なのでいつも俺の隣にいた。
始めに、よりを戻すことはないと告げ、涼子も頷いていたので、俺も邪険にする事なく放っていたのだが・・・。

久し振りに会った涼子はいつにも増してはしゃいでいたように見えた。
俺はカバンから本を取り出し読み始めると、腕に絡んできた。
始めのうちは振りほどいていたのだが、涼子はしつこくていい加減俺も諦めてそのままにしておいた。
程なくして、向いのホームに電車がやってきた。
いつもより1本早い電車だ。

無理やり涼子を引き剥がした。
むっとしたようだがそこは無視を決め込んだ。
涼子はむくれてそっぽを向いている。
これ幸いにとばかりに本を立てに向いの電車の中をじっと見つめた。
電車が動き出すも、やはり彼女を見つけることは出来なかった。

落胆した俺は、また纏わりついてきた涼子を振り払うことが出来なかった。
そして、今度はこちらのホームに電車が入ってきた。
何ヶ月か前まで俺が乗っていた電車だ。
涼子が俺の腕を引っ張って一緒に乗ろうと言ったのだが、俺はその場から動かなかった。

「どうしたの?」
と俺の顔を覗きこむ涼子。

「いいから乗っていけよ。」
涼子を突き放すも涼子は足を踏み入れた車両から降りてしまった。

「圭吾と一緒に乗るんだもん。」
そういって電車を見送ってしまった。

なんてこった。
最悪だよ。
そう思ってみるももう遅い。
仕方なくまた本に目を落とす。
そうして次はまた、向いのホームに電車が入ってきた。

今度こそ、期待を込めて向いの電車を見る。
そして、やっぱりなぁ。彼女を見つけることは出来なかった。
その間も涼子はどうした?どうした?と俺の隣に纏わりついていた。
ぼーっと、電車が行ってしまった向かいのホームを見ていると

あっ

ホームの先に先ほど電車を降りた乗客に紛れセーラー服を着た彼女を見つけた。
間違いない彼女だ。

涼子に、
「俺ちょっと行くから次の電車に乗って行くんだぞ。」
そういって腕を振り解き、俺は歩き出した。

なんでだ?

どうしてこの駅にいるのかは解らなかったがそんなことを考えている暇はない、彼女は階段を駆け上がろうとしていた。
今度こそ捕まえなくては。
逸る気持ちを抑えることは出来なかった。

階段を急いで上がるも、彼女の姿はまた見つからない。
目の前にあるトイレが目に入った。
きっとここだ。
トイレの前で待ち伏せるなんて向こうにとったら嫌かもしれない。
だけど俺にはそんな事をいっている余裕はなかった。

暫くするも、彼女は出てこなかった。
アナウンスが流れ俺がいつも乗って行く電車が来たことを告げる。
そして電車は発車した。
涼子が乗っていったことを願って。

トイレの壁に寄りかかる。
どれ位待ったのだろう、やっぱりここにはいないのか?
そう思ったとき

俺の前を彼女が通り過ぎた。

「見つけた。」
声が震えなかっただろうか?
それ位俺の心臓は一気にざわついた。

彼女が振り返った。
あの目だ。
丸いくりっとしたあの目。

俺は彼女しか目に入らなかった。