電車通学

思いは何処に?

見つけた?

周りを見るも、朝の通勤通学時間足を止める人もいなくて。

見つけられた?
私を???

彼を見ると私を見てる。
それも零れんばかりの笑顔で。

嘘、夢じゃないよね。
私に言ったんだよね。
信じたいけど、信じられない。

間違いだったら早く気づいて欲しい。
人違いだったって。

「突然、ごめん。顔色悪いけど大丈夫?」
彼の先ほどの発言が頭の中でまだ”?マーク”が回っている私。

思考停止中。

何がおきているのか良く解らない。
とりあえず返事をしなくてはと思うのだが、口が開いてくれない。
私はコクリと頷いた。

すると彼は
「この前は突然携帯貸してくれなんて言ってすまなかった。助かったよ」

私はまた頷いた。
この状況が今一信じられない。
さっきのコは?
どうして私に話しかけたりするの?
見つけたって何?

彼は困ったように笑い、頭を掻きながら何かを言おうとしていた。
ごくりと唾を飲み込んで彼の言葉を待ったのだけど

「圭吾ー何やってんの!電車行っちゃったじゃない!」

さっきのコがやってきた。

ほらね。
見つけたと言われ少しだけ期待してしまった自分が恥ずかしい。
と同時にさっきとは違う胸の疼き。
だから、貴方が他の女の子と一緒にいる姿は見たくなかったのに。

彼は一瞬にして険しい顔になった。
これ以上ここにいるのはごめんだ。

ちょうど電車がくるアナウンスが聞こえた。
動け私の足。
涙が零れそうになるのを必死で我慢してもう話す事もないだろう彼に
「じゃあ」
と告げると一気に駆け出した。

「待って、話があるんだ」

彼はそう言ったが私には聞くことができない。
彼の隣では近くで見れば見るほど可愛らしい彼女が首を傾げている。

私は振り向きもせず、階段を駆け下り電車に飛び乗った。

鼓動が激しい。

それは急に走ったせいなのか
彼の話を聞かずに来てしまった事なのか

動き出した電車からちらっとホームをみると
けいごと呼ばれた彼が立っていた。

何かを言っていたがこちらには全く聞こえない。
でもこれでいいんだ。

電車にさえ乗らなかったら会わなかった彼。
最後の最後で名前は解ったけど。

何を話したかったのだろう?
知りたくないと言えば嘘になる。
うううん、知りたくてしょうがなかった。

でもでもあの彼女に

「この子誰?」って聞かれたら?

友達とも、知り合いともいえない、ただ電車ですれ違うだけの関係。
だってお互い名前だって、学校だって何一つ知らないのだから。
彼から否定的な言葉を聞くのが怖かったんだ。

否定的っていっても事実なのだから仕方がない。

私と彼の関係。

私からすれば

姿を見るだけで、キューンと胸が疼く
好きになってしまった人

でも彼からすれば?

只の顔見知り。
たった一度だけちょっと話をしただけの顔見知り。

自分で考えて虚しくなってくる。
背中からお腹のほうから得たいのしれない何かが蠢いてきているような気持ち悪さがこみ上げてくる。

これは嫉妬という感情なのだろうか
仲よさそうに彼の腕に自分の腕を絡ませる彼女
それを払うことなくいつものように本を読む彼。

耳奥には彼女の可愛い彼を呼ぶ声。

全てが私の記憶から消えてしまえばいいのに
そう彼の事させえも

そうすればこんな気持ちになる事はなかったのだから
そうすればまたあの何も期待をもたない只の電車通学になるだけなのだから

いつも間にかに唇をかみ締めていたようで
気がついたらほんのちょっぴり錆びた味がした。