電車通学
友情2
綾南かぁ
ここから2駅先の高校だった。
そこは地元から通う奴も多くて、結構大きな高校だった。
「よう圭吾、今日久々にゲーセン寄って行こうぜ。あんまり思いつめた顔してっと、彼女にひかれちゃうぞ。」
冗談とも本気とも取れる言葉だ。
「悪い、やっぱパスする。俺、今日帰るから」
そういってカバンを手に取った。
「おい、6限お前の好きな日本史じゃん。いいのかよー」
後ろで真治の声がしたが、片手をあげ後は宜しくとばかりに教室を出た。
途中職員室に寄って早退届けを出した。
普段から真面目に授業を出ている俺は何の疑いももたれずに学校を出ることが出来た。
いつもよりまだ早い電車の中。
座席も疎らで、ちょっとした時間の差でこんなに風景が違う物なのかと思ってしまう。
それは、これから起こす行動のせいなのかもしれないが。
自分の駅を通りすぎた。
ここから先は最近来ていない。
電車を乗っていてもいつも本を読むばかりだったので周りを見渡すこともしないし、何も考えたことはなかったのだが、ここから毎日彼女が通っているところなのだと思うと感慨深いものがあったりする。
こんな風に一緒に通うことができたならいいのにと。
綾南高校は大体の場所は知っていた。
高校受験をする時に一応選択肢に入っていたからだ。
一歩一歩近づく彼女の高校。
段々と緊張してくるのが解った。
校門の前に着いたときは丁度放課後になったところのようだった。
早退しなかったら間に合わなかっただろう、幸先の良いスタートだ。
近くのガードレールに寄りかかって出てくる生徒を見る。
一人一人、彼女を見落とさないように。
そのうち同じ中学だった奴も出てきて話掛けたりされたのだが俺にとっては邪魔でしかなく、何人のやつにごめんといったのだろう。
中には誰か捜しているのだったら呼んでやるよと言ってくれた奴もいるのだが、丁重に断った。
自分で見つけないとそればかっり考えていたから。
1時間ほど待った頃にふと思う、部活をやっているのかもしれないと。
自分の中では今日こそは、の思いもあるので時間は全く気にならなかったのだが、
もし彼女が彼と一緒にでてきたら。
俺の話を聞いてくれるのだろうかと今更ながらに考えた。
無論、俺は気にしないのだが、彼女のほうはどうなんだろう。
ここにきて、マイナス思考に囚われた。
すると突然目の前に影が出来た。
「またね会えたね」
そう微笑むのはあの電車で見た髪の長い彼女だった。
俺は怪訝そうな顔をしたらしく彼女は
「そんな顔してると運も逃げていくよ」
とニヤリと笑った。そして
「待っても無駄だよ。彼女今日休みだから」
と言った。
俺は何が何だか解らなかった。
誰なんだこいつは、どうして彼女を待ってるって解るんだ?
彼女を見上げると、俺の隣に腰掛け俺に話しかけてきた。
「電車で会う女の子に会いに来たんでしょ。そうねぇ背丈は私と同じ位、髪はショートボブのストレート。それに大きなくりっとした目をした女の子を」
俺は思わず立ち上がってしまった。
「いいね、その反応。少し話をしようよ、大丈夫私彼女の友達だから」
そういって俺の返事を待たずに自転車を押し歩きだす彼女。
真治の女版って感じだった。
まだまばらに校門から出てくる人を見ながら迷いもあったのだが、この不思議な女についていくことにした。
連れていかれたのは、細い路地裏にある喫茶店。
そこで俺は彼女に質問攻めにされた。
にも関わらず、俺の一番気になる彼女に関しては全く教えてくれなかった。
俺の名前や携帯の番号まで聞いたのにだぞ。
おまけに彼女が食べたケーキまで奢らせられて。
帰り際
「大丈夫、私に任せて。そうね3日頂戴、それまではちょっと待ってて。絶対悪いようにはしないから」
と言ってさっさと自転車に乗って帰ってしまった。
狐につままれたようなといのはこの事なのだろうか。
でも不思議と、本当に不思議なんだが悪い気は全くしなかった。
自分で捜すと意気込んでいたにも関わらず、彼女のペースに巻き込まれてしまった。
3日か。
今までの期間よりずっと短いその時間。
彼女に一番近い友達だといっていた。
何もしないで待つのは不本意だが、高校名がわかった今、3日だけ彼女を信じて待ってみようと思ったのだった。