電車通学

急接近

電車で会う眼鏡の彼。
一旦近くで見てからは、自分の気持ちが大きくなっていくのが止められなかった。

だからと言ってどうする事も出来なくて、朝の電車も彼の近くの車両へは行けないでいる。

相変わらずどこの学校に行っているのかも、名前も知らないままだった。
いっその事、早く起きて彼の待つホームで待ち伏せでもしてみようかなどと、大胆な事を考えた事が無いわけでもないのだが、実際行動に移せる訳でもなくて。
すれ違う電車からそっと彼を見つめることしか出来なかった。

だってもし、あんた誰?状態だったら、私立ち直れないよ。
もし、じゃなくてその通りなだけにどうしようもない。

カエル状態を笑われたのと。
ダイヤが乱れたあの日に近くにいただけなんだから。
きっと同一人物だってことも解っていないはずなんだから。

彼にとったら、記憶の片隅にもいないのかも。
虚しいとしかいいようがなかった。

でも一番気になる事は、あんなカッコイイ彼に彼女がいないはずないってことだ。
客観的にみても、誰もが振り返るんじゃないかと思う程かっこいいと思うから。

駅のトイレで鏡をみた。
どこから、どこをみても平凡な私。
可愛くないとは言わないけど、可愛いといわれることはない。
せめて、桜くらい可愛かったら勇気も持てるのかも知れないな。
なんて、ありっこない想像をしてみる。

電車が来るというアナウンスが入りホームへと降りていった。

帰りの電車は行きとは違って、座る余裕がある。
私は、いるわけないって解っているのだけど帰りの電車は、朝いつも彼が乗っている付近の車両へと乗ってしまう。

彼が乗る駅に着くと朝はここら辺に乗ってるんだよなぁ。
なんて思いながら。

そうして今日も彼の乗る駅を通り過ぎて次の駅に停車した。
いつもだったら、直ぐに発車するはずなのに、電車は動かなかった。
おかしいなと思いつつ、席に座り待っていると、車掌さんからアナウンスが入った。

1つ先の駅付近で火災があり、電車の運転を見合わせているのだというのだ。
これでは電車が動くまでいつになるか解らない。

私は携帯を持ち出し家へと電話して迎いにきて貰うことにした。

「もしもし、私。電車動かないから迎えに来て。」
と駅名をいい電話を切った。
お姉ちゃんが出た。
今年大学2年のお姉ちゃんは、バイトに明け暮れあまり学校に行っていないようだった。
そんな中最近車の免許を取ったばかりで。
もしかして、お姉ちゃんが迎えに来るのかも!

一度だけ乗った事の有るその車は恐怖でしかなかった。
これなら電車を待ってた方が良かったかも。

なんて、思いながら携帯をカバンにしまおうとしたその時

目の前に眼鏡君がいた。

気がつけば、同じのホームに反対方向へ向かう電車が止まっていた。
今日は電車越しではなくて、至近距離に彼はいる。

私は思わずペコリとお辞儀をしてしまった。
なにやってるの私。
彼は私の事なんて知らないはずなのに。

なのに、彼は
「どうも」
と言った。

想像していたよりも低いその声に、私の心臓が加速した。

声も良いじゃん!

気がつけば、彼は私を見て笑いを堪えているようだった。

何?私何か変なことした???
髪?
制服のスカートが曲がっているとか?

すると彼が話しかけてきた。

「ごめん。悪気があるわけじゃないんだ。ただやっぱり面白いなと思って。」
それだけいうと彼は今度は笑いを堪えずに反対を向いて笑いだした。

悪気があるわけじゃない?それって笑ったこと?
やっぱりって?
もしかして、私がカエルになったの覚えてるのーーー!

私はまた顔に出ていたようで、
「頼むから、これ以上笑わせないでくれ。」
と言われた。

私だって笑われたくないのに。

でも不思議と彼は初めて話したような感じはなくて、冷たそうに見えたけどよく笑う、気さくな人なんだなって思った。

「初めて話したのに、申し訳ないって思うけど良かったら携帯かしてくれないか?」
と私に聞いてきた。
彼の手には電源の切れた携帯が握られていた。

私は
指も長くて、手も綺麗なんて思ってしまって一瞬返事をするのが遅れた。

「駄目かな?」
私の顔をみる彼はやっぱりかっこよくて。

「どうぞ」
と言って私の携帯を差し出した。

「有難う」
と言って彼が私の携帯を受け取った。

今日は携帯を抱きしめながら寝よう!決定だ。

家へ連絡のついた彼が私に携帯を返してくれた。
「ちょっと待ってて」
といって買ってきてくれた缶コーヒーと共に。

2人で階段を上がって改札をでた。
車を待つ間、話せるかも。
と喜んでしまったのだが、

改札をでたところで
私は西口へ
彼は東口へと
一歩歩き出した。

「「あっ」」
2人同時に小さな声を出したのだが、その後は彼の方へ一歩踏み出す事も出来ず、
また彼も私の方に一歩踏み出す事もせずで。

ちょっとの間の後

凄ーく凄ーく名残惜しいけど

「じゃあ」
といって歩きだしてしまった私。

彼は
「携帯ありがと。助かったよ」
と言った。

私は買って貰った缶コーヒーを高くあげ
「こちらこそご馳走さま」
と言った。

その後は振り返りもせず、駅の出口へときてしまった。

迎えにくる待ち合わせの駅の近くの公園のベンチに座った。

やったー。
話ちゃったよ。
携帯を握りしめながらニヤケル顔を止められない。
声も良かったよ。

あの時ドラマに嵌って良かったぁ

そう思ったのだが、

話をしたのはいいけど高校も、名前も聞かなかったよ。

なにやってるんだ私。
情けない。

せめて名前だけでも聞いとけばいいのに。
私の馬鹿ー。

そればっかりが頭に浮かんで、せっかくハイテンションだったのに。
少し沈んでしまった。

そして、それから15分後。
恐怖のドライブをして家に辿りついたのだった。