電車通学

嫌悪感

「郁っ怪しい人になってるって。」
桜の声に我に返った。

「なってた?」
恐る恐る聞いてみるも、返ってきた言葉は

「いつもの3割増しって感じ?郁の百面相は見慣れたもんだけど、久々だね今日のは。」
何だか意地の悪い笑みを浮かべて・・・
その笑みは美人の桜がすると、様になるっていうか。
ちょっと色っぽいなんて見とれてしまった。

前回の事を考えると、また笑われてしまいそうで話すのはちょっと様子を見てからに。
なんて考えていたのだけれど、私って直ぐに顔に出ちゃうんだよね。
どうすればポーカーフェイスが出来るのか誰か教えて欲しいもんだよ。

「郁の顔みたら大体想像できるけどね。私の推測によるとー」

「ちょっと待った。その先言わなくてもいいから!私をそっとしといてよ。」
ほっぺたを膨らませて応戦してみるも

「まあ、聞くだけ聞いてみなよ。」
と勝手に話出した。

「まず、眼鏡君がらみは確定でしょ」

だから、顔を覗きこむなっていうの!

「それで、いいことが合って、でも何かまた失敗して落ち込んで。」

いちいち私の反応を確かめるように私の顔を覗きこみながら話をする桜。
今更だけど、友達間違ったかも知れないとちょっと思ってしまった。

「それで、そのいい事ってのはちょっとお近づきになったってところだね。」
私の顔をみて確信したんだろう。
満足気に頷くと、

「どう?いい線いってるでしょう?」
とまたあの笑みだよ。

何か言うとまた突っ込まれそうなので、私は返事をする事なく机にうつ伏せた。

「郁ったらツレナイのぉ」
このままどこか行ってくれたら、と願ったものの私の前の席に腰を下ろしてしまった桜。

「それで、私も眼鏡君に興味を持ったと言う事で、日曜日に郁の家に泊まりに行く事にしたから!宜しくね。」
と。

ぜーったい嫌っー。

心の中で絶叫するも目の前の桜に面と向かって言えない私って。
やんわりと断ってみるけど、桜は

「もう決定事項だから。」
と私の返事を聞かずに席を立ってしまった。

まだ大丈夫、日曜まではまだ4日ある。
何か良い口実があればいいんだけれど・・・

直ぐに顔に出てしまう私は、桜相手に嘘なんかもっての他で。
嘘なんてついてみようもんなら、たちまち突っ込まれて大事になりそうだし。
頭が痛くなってきたのは気のせいなんだろうか?

あーもう。
折角、彼の声を思い出して浸っていたっていうのに。

そしてふと思う。
そんな事をしてるから桜に言われるんだよね。
それにしても、彼の声を思い出して浸ってる私って・・・危ない子かも。

危ない子かもなんて自覚しているくせに、つい無意識に(この無意識にって重要だ)思い出してる私がいる。
とうとう大山にまで突っ込まれてしまった。

「極上のいいことがあったって顔してるぞ。」
そんな事を言いつつも大山はまた黒板へと顔を戻した。
桜の態度とはえらい違いだ、突っ込まれない事でほっとするも、本音は気がつかない振りしてくれた方がいいのだけど。

「ちょっとね」
私の返事なんて聞いてないだろうけど一応返事はしてみた。
すると、大山は私の机にノートを近づけた。
そこには

「一目惚れしたって?」
ごつごつした山のような身体には似つかない、繊細そうな綺麗な字でそう書かれていた。

一目惚れではないと思うけど、近いものはある。
それにしてもなんで?何で知ってるの〜

大山の顔を見るも、ノートはまだそこに置かれたまま前を向いていた。
これって返事しなくちゃなのかな?私は

「秘密」

って綺麗なその字の下に書いてみた。

秘密ってばればれじゃん。
とういう大山の呟きが聞こえた。

そんなこんなの昼休み。
いつものように桜と屋上でしゃべっていたら、風にのって何処からか女の子の話声が聞こえた。

「沙織が大山に告って振られたらしいよ」

「大山ね。あの今時っぽくないとこがいいのかもね。何か解るかも知れないー」

桜と顔を見合わせた。
大山ってあの大山だよね。

確かに。ごつい顔にでっかい体、声も低いし今時からはかなり離れたところにいるかも。
美少年とはほど遠いどっちかって言ったら”男前”かな。
桜も沙織ちゃん見る目あるね、なんて言ってる。

そして、今度は2人で聞き耳立ててしまった。

「それで、どうして振られたって?沙織可愛いじゃん。」

「それがさぁ沙織が”一目惚れです”って言ったら、それが決まりだったみたい。」

「何それー」

「大山は”一目惚れっていうのは、顔だけだろって。人を顔で判断してるの嫌悪感があるって、仮にも自分のどこがいいとか言ってくれたら、考えたかも知れないけど。”って言われたってよ。ちょっと納得しちゃったよー」

この後も何か話していたけど、あんまりにも衝撃的でちっとも耳に入ってこなかった。
私も大山に嫌悪感もたれちゃった?それより一目惚れされる方はそんな風に思ったりするのかぁ、
眼鏡君もそう思うのだろうか?

桜というと
「でもさ、切欠は一目惚れかも知れないけど切欠は切欠としてその人をみているうちに段々とその人の事を解ってくるもんじゃないのかな?私は有りだと思うけどね。」

私をみながらそう言った。
でも、顔とか声に反応している私はやっぱり嫌悪感持たれる対象だったりして。
桜の言葉に励まされつつもその後の時間はそればっかり考えてしまった。

大山はその後も私に対して態度は変わらず、一先ず”ほっと”してはみたのだけどね。

それより桜だ。
あと4日どうやって逃れるんだ?
無い頭を絞って考えないと。

色々な意味で疲れた1日だった。