電車通学

待ち合わせ2

逸る気持ちを抑えられない。
いつもより自然と速くなってしまう駅への道。

彼女との待ち合わせは、ここから1つ先の駅だった。
そう、あの缶コーヒーを買った駅。

あの日のことを考えていると、突然携帯がなった。
見ると、見覚えのない番号。
無視してしまおう、そう思ったのだが癖なのか思わずボタンを押してしまって。

「出るのが遅い」
俺より先に声がした。
忘れもしない、この前の彼女だった。

機嫌の悪そうな声にまたまた思わず
「悪い」
と謝ってしまう俺。
言った後に何で謝ってるのだか疑問に思ったのだが、次の彼女の一言でそんなことは吹っ飛んだ。

「嬉しそうな顔して、今駅に行ったよ」
と。

嬉しそうな顔してた。
その言葉が頭を駆け巡る。

「本当に?」
と聞き返した。
まさか嘘ですなんていわないだろうけど。
すると彼女は俺の問いには答えず

「私の大事な友達だから、泣かせたら承知しないから。無言電話毎晩かけてやるから」
と笑い声を交えながらそう言った。

「俺が泣かされたりして」
どうしてこんなことを言ってしまったのかは解らない。
言った瞬間に後悔していた。

案の定彼女は大笑いしながら
「クールな顔してるのに、あんたも天然なんだね〜まあ兎に角、後は自分で頑張りなよ」
最後の言葉は笑い声ではなく、真剣身のある少し低い声だった。

「ああ、やるだけやってみる」
そう言った俺の言葉に安心したのか

「じゃあまたね」
と電話が切れた。
またね、かぁ。俺としてはあまり会いたくないのだけれど。

自転車を駐輪場に止め、電車を待った。
5分後にはあの駅に着く。
今度こそ自己紹介をしなくては、そして彼女の名前を。
これ以上のすれ違いはごめんだ。

いろいろな事を考えていて気がついたら電車に乗っていた。
そしてあっという間に目的の駅に。
危うく乗り過ごすところだった、洒落にならない。

ホームに降りると一番初めに目についた自動販売機。

ここからやり直しだ。

そう思ってあの日と同じコーヒーを2つ買い
小脇に抱え改札を出た。

彼女はまだ着ていないようだ。
向いの壁に寄りかかって真っ直ぐに前を向く。
来ないってことはないよな。
さっき駅に行ったって言ってたよな。
期待と不安が入り混じり変な汗が出てきた。
どれ位経っただろうか?アナウンスが入り電車がホームへ到着した事を告げる。

一人二人と階段を上がってくる。
この電車に乗っているとは限らないが、よく目を凝らし前を見つめる。
この電車には乗っていなかったのだろうか、段々階段を上がってくる人も疎らになったその時に、視線を少し下に向けた彼女が現れた。

ベージュを基調とした小さな花柄のワンピースを着ていた。
制服しか見たことのなかった彼女はいつもより少しだけ雰囲気が違っていて、俺の心臓は加速する。

改札を出た彼女は顔を上げ―目が合った。
彼女の手にもコーヒーが。
彼女も俺の手に気がついたらしい。
顔を見合わせて、笑っていた。

彼女に近寄り
「良かった来てくれて、俺、浅野圭吾」
彼女を待つ間、なんて言おうかと考えていたのに、結局口からでたのは”良かった来てくれて”って。まあ名前を言えたから良かったのか?

「私、佐伯郁って言います」
彼女も緊張してくれているのか、それはそれは大きな声で。
やっぱり良いよな。なんて俺は思っていたのに、彼女はとても複雑そうな顔をしていた。
そんな顔しないで、そんな君だから好きになったのだから。

いつまでも、ここに居るわけにはいかないだろう。
何処か場所を変えようと言ってみたのだが何処へ行けばいいんだ? 電車に乗って移動するのか? 何処に行けば。
真治だったら得意そうだよな、駄目だな俺って。
そう考えていたら佐伯さんが公園へ行こうと言ってくれた。

そうして今2人並んで歩いている。
俺の隣に彼女が。
こんな風にずっと隣にいてくれたらいいのにと彼女がいるのに話もせず、そればっかり考えていた。
時折コーヒーを持った手が触れた。
その度にトクンと鼓動が跳ね上がる。
他の子とは手だって繋いだ事もある、それ以上だって……

今の俺は小学生か! って位に1つ1つの出来事に反応してしまう。
思わずにやけてしまいそうな顔をぐっと堪え公園への道を歩いた。