電車通学

それでこそ2
こうなったら、開き直るしかないよね。
お腹にそっと手を当てながら圭吾君と屋台のおじさんがやりとりを見ていたら、急におじさんが私に話しを振ってきた。

あ、青海苔ですと! 勿論たっ……
一瞬私の頭の中で青海苔が駆け巡る。やっぱりここはいらないと言うべきなのだろうかと。
いいや、やっぱりたこ焼きには青海苔が無くちゃ。
普通でお願いします。

私はそう言ってしまった。
でもそれは正解だったみたくて、おじさんはニカッと笑って青海苔をぱらっと振りかけてくれた。
そうして、たこ焼きはビニール袋に入れられて、私たちの前に差し出された。
当然お金を払わなくちゃいけないわけで、とっても残念だとは思うけれど折角繋げたてを、しっかりと合わさった指を解いて手を引いた。
離れた手に空気が触れて、暖められた体温が逃げていく。

圭吾君がお金を払うのをぼーっと眺めてしまった。
さっきまで繋がれた手はたこ焼きにとって変わってしまった。

圭吾君にとったら大したことではないのかもしれない。
その証拠にスタスタと先を歩いていってしまう。

慌てて後を追いかける私に圭吾君は
「俺さっき始めて知ったんだけど、青海苔とか気にするもんなの?」
なんて聞かれてしまった。
普通はそうだと思う。
青海苔チェック! とか女の子同士でもしているくらいだから。
それが好きな男の子と一緒にいるのだったら尚更……
でも、青海苔は捨てがたいよ。
ここで、私もなんて言っちゃたら、この先も我慢しなくちゃだよね、それは無理かも。
後でばれるくらいなら、言ってしまおう。

「うん、気にする子は気にするかな。でも、やっぱりたこ焼きには青海苔のってないと駄目でしょ。」
素直な気持ちを言ってみた。

「じゃあ、焼きそばとお好み焼きも?」
またもや聞かれたその問いに”勿論”とばかりに大きく頷きながら

「うん」
と返した。

圭吾君の満面の笑みが返ってきた。

そしてまた前に向かって歩き出した圭吾君、って、向かった先は焼きそばの屋台?!
そこでも私は隣にぼーっと立つだけで。
圭吾君は袋を断り、たこ焼きの上に焼きそばを重ねた。
屋台のお兄さんに”割り箸は一本でいいです”と言っていたのはしっかりと聞えた。
そしてまた、今度はお好み焼きですか!実はさっきからもう2度もお腹がなっている。
小さい音だったから聞えてはいなかったとは思うけれど。
もうどうにかして状態だよ。
そしてまた、お好み焼きは焼きそばの上に重ねられた。

おまたせ

と圭吾君は私の手を取ってくれた。
それはそれはビックリして……だって指をね、さっきみたいに絡めてくれて。
それだけで、どうしようも無いくらい心臓が跳ね上がってしまう。
今日の心臓は大忙しだよ。

言葉も交わさず黙々と歩くけれど、繋いだ手が暖かくて。
びっくりして私のお腹もなるのを止めてくれたみたいだった。

圭吾君が反対の手を持ち上げて
”何処かいい場所ある?”
と聞いてきた。
真っ先に浮かんだのは神社の境内だ。

そして私は今、神社の境内の階段に腰掛けている。
手にはお好み焼きと焼きそばのハーフ&ハーフ。
私と圭吾君の間にはたこ焼きが。

こんなに幸せでいいのでしょうか?
大好きな食べ物に、大好きな人……。

「食べきらなかったら、俺食うから。」
そういってこれを渡してくれた圭吾君。

「こんなに食べれないかも……なんて言わないよ!私結構食べるんだよ。」
なんて思わず言ってしまった。

それでこそ郁だよって言われちゃったけど、それでこそってなんだろう。
隠してたわけじゃないけど、やっぱりそう思ったんだなんて。

ふーっう。
やっぱり少し食べ過ぎたかもしれない。
私のお腹ははちきれんばかり!
さすがに、たこ焼きは半分食べれなかった。
今日はワンピースだったから良かったかも、ジーンズなんて履いてたらきっとベルトの穴を緩めなくてはいけなかっただろう。
浴衣だったらそれこそ大変だよ。


私は手を合わせご馳走様でしたと空になったパックにお辞儀をした。
そうそうお金だ。
「半分払うね」
と財布を出した。

圭吾君は私の財布をじっと見つめて
「今日はおごらせて。でも変わりに頼みがあるんだ。」
奢らせてしまっていいのだろうかと考えつつも最後のその言葉がちょっとドキドキだよ。
何を言われるのだろう?

「頼み?」
びくびくしながら聞いてみた。


「そう、頼み。来月俺の地元で花火大会があるんだ。それに一緒に行って欲しいんだ。」
花火大会ですと!ビックイベントじゃないですか。

「知ってる、行った事はないけど結構大きいんだよね。連れてってくれるの?」
連れてってくれるの?なんて言いながらにやける顔を抑えられない。
もしかして、それが頼み事なの?
そんなのん気な私に

「郁と見たかったんだ。それで、その時に……浴衣着てくれないか?」
ゆ・浴衣着ですか!
本当だったら、今だって着ていたかもしれないそれ。

「……浴衣着て行くね。」
ちょっと照れてしまった。

圭吾君も下向いている。

あっそうだ、青海苔!
こっそり後ろを向いてハンカチで口を拭ってみる。
案の定たっぷりと着いた青海苔。

ふと見ると、圭吾君もなにやら。
2人で顔を見合わせて笑った。
それも大声で。

ムードもへったくりもあったもんじゃないけど、この空間がとても心地良かった。