電車通学

上の空
郁は今頃――

自分のいない空間で楽しんでいるだろう姿を想像しては落ち込んで。
土曜の天気とはうってかわって今日は体育祭日和だったりする。
はぁ
あの時の郁の姿は目に焼き付いていて。
大きめの学ランを羽織るその姿は可愛すぎだろ。
彼氏の贔屓目じゃないと思う。

そんなこんなの昼休み。
購買で買ったパンをかじりながら窓の外を眺めていると、ポケットの中の携帯が震えた。
メールだ。
発信者名をみて、思わず身震い。
そして、意味深なタイトル。

「これ以上のものをお望みなら課金して下さい」

本文がなく添付されたその写真は紛れもない郁のもので。
だけど、何だよこれ後ろ姿じゃないか。
俺の学ランを着た郁の後姿。
背中に垂らされた緑色の鉢巻。
部屋で着た時は座っていたから解らなかったけど。
短パンをすっぽり隠して、素足が、素足が――。

目眩がしそうだった。
これやばいだろ。
隠し撮りをしたのだろう、少し遠めの後姿。

課金って。そう言う事なのか?
一度メールを閉じて、考える。
あいつは悪魔だ。
そんな事を思っていたら、2通目のメール。
今度のタイトルは
「高くつくよ」
ときたもんだ。

嫌な予感がしつつ、メールを開くと。
満面の笑みの桜の顔だった。
これくらいはやりそうだ。
全くムカつく奴だ。
肝心の郁はこれっぽちも写ってないじゃないか。
段々とイライラとしかけたその時にまたもやメールが。
タイトル無しのそのメールには

郁が少し顔を赤らめながら楽しそうに笑っている姿があった。
思わず口元が緩んだけれど、それはながく続かなくて。
もやもやしたこの気持ちは、そう紛れもない『嫉妬』だ。
最近こんな風に笑う郁を見ていないような気がする。
気にし過ぎなのかもしれないけれど、やっぱり釈然としない。

本来なら桜に礼のメールでも送るところだろうが、それも出来ない俺がいた。
同じ学校じゃないなんて、初めっから解りきっているっていうのに。
嬉しいはずの写メなのに。

予鈴がなって、食べかけのパンを口にねじ込んだ。
このパンのようにもやもやした気持ちも消えてなくなればいのにと、必要以上に噛み砕いた。

「何だか荒れてるねぇ、とうとう郁ちゃんに愛想でも尽かされちゃったとか?」
学食から帰ってきた真治が呑気そうに俺の肩を叩いた。

返す言葉もなくて、無言で机から教科書を引っ張りだすと、真治は何を勘違いしたのだか

「マジかよ」
と一言。

「そんな事ねえよ」
そうは言い返してみるものの、あの笑顔の先には誰がいたのだろうと考えても仕方のない事を考えてしまう。

「なら良いけど、お前ここんとこ浮き沈み激しくないか? そんな眉間に皺寄せてると――。おっと、ここから先は禁句だな。まあ、彼女のいない俺には羨ましいけどな」
にやりと笑って真治が席に着くと、自分の眉間に人差し指をあてた。

皺なんて寄ってねえっつうの。

窓の外は変わらずいい天気だ。
郁はまだ俺の学ランを着ているのだろうか?

緑色の鉢巻か。
そう言えば俺も緑色だったっけ。

はぁ。
今日何度目かのため息をついた時、チャイムが鳴った。
まだ黒板を写し終わってないのに気がついて慌ててノートに書き写す。

そんな調子のまま放課後。
「圭吾、今日帰りに何か食っていかないか」
腹減った、と腹をさする真治に
「行く」
と一言返した。
桜にメールを貰ったせいで、昼は食べた気がしなかったから丁度良かったかもしれない。今日はバイトもないしな。
真治と自転車を並べて駅前のマックへ。
昼時でも無いのに結構な人がいた。

注文を終え、席についた途端に真治が
「なぁ、なんでこんなに女の子がいるのに俺には彼女がいないんだろう」

なんて言うもんだから、思わず口にしたコーヒーを吹きそうになった。
俺からしたら、またいつもみたいに何か突っ込まれるのじゃないかと構えていただけに、この呟きのような一言には意表をつかれた。何て言っていいかも解らず、もう一度コーヒーを口元に運んだ。
確かに、これだけ人がいるのにどうして郁なのだろう、思わず笑みが零れる。
「笑うなって結構切実なんだって」
そうは言っているが、普段お茶らけている分、本気さが伝わってこない。
「そのうちじゃねえの?」
俺だってそうだったんだから。
そう突然だったから。

他愛のない話しをしていると、携帯が震えた。
またあいつだ。
ハスに構えて携帯を開くと
「とっておきの一枚」
と題した一枚の写メ。

思わず息をのんだ。
それは遠くから撮られた郁の姿。
今度は後ろ姿じゃなくて、横を向いているけれど――。

俺の学ランを着て、恥ずかしそうにギュッと裾を握っている郁がいた。

今日一日あったもやもやが晴れていくようだった。
これって、そうだよな。俺の勘違いじゃないよな。
この一枚だけには本文もついていた。

――あんたの学校の校章。随分と役に立ってたよ――
真治がいる事も忘れて、思わずニヤケてしまう俺。

「もしもーし。浅野君、何がそんなに嬉しいのかな?」
身を乗り出すようにして覗きこむ真治から逃げるように携帯を畳む。

「何でもないって」
そう言ってはみるけれど、この顔はそう簡単に直せないって。