迷いみち

11話
実家のドアを潜った瞬間から父母の熱烈な歓迎を受けた子供達。
居間に通されからも質問攻めだ。
子供達が嬉しそうに答えているのを、座イスにもたれながら、ぼーっと見ていた。

それからしばらくしてやってきた美香さん。
美香さんが煎れてくれたお茶を飲みながら、世間話に花が咲いた。
元々地元の美香さんはご近所の噂話も十二分に熟知していて、私の同級生の山田君が先月リストラにあったとか、同じ町内の美鈴ちゃんが離婚して戻ってきたいみたいだよ。
など、地元でしか仕入れられない話を沢山聞かせてくれた。

あら、もうこんな時間、部活から帰ってきちゃうのね。
そう言ってテーブルに手を掛けて立ち上がった美香さん。
何でも洗濯物が山のように出てくるらしくて、大変だよとボヤきながら消えていった。
柔道着が汗臭くてかなわないのよー、かぁ。
中学生にもなると大変なんだなと温くなったお茶を勢いよく飲み干した。

その晩はクリスマスパーティだと食卓には和洋折衷の料理が並んだ。
母さんの作る煮物だったり、美香さんの作ったチキンだったり。
いつも3人で食べる食事とはえらい違いだ。
その量も半端じゃなくて、食べ切れるの? なんて思ったのに、それは

「お久しぶりです」
と現れた甥っ子、昇の登場で杞憂に終わった。
確か前にあったのは、1年前だよね。
こんなに大きく育つものだろうか?
線の細い兄夫婦とは全く違うたくましいという言葉がぴったりの男の子になっていた。

食べる食べる。
初めは余裕をかましていた息子達だったけれど、好物を取られてなるものかと競うように食べ始めた。何だかおかしくて、涙が出てしまった程。
こんなに笑ったのは久し振りだった。
食事を終えても、子供達は興奮していて、昇の腕に飛びついて離れなかった。
プロレスごっこがお気に召したようで、隣の部屋に行ってどたばたと暴れまくっていた。

「ところで、忠行君は? 仕事か?」
父親の言葉に今までの楽しい気持ちが一気に吹き飛んだ。
だけど心配させる訳にはいかない。

「そうなのよ、年末で忙しいらしくて泊まり込みみたいな感じかな」

「そっかぁ、それは大変だな」

父の言葉が本当に旦那を心配しているようで何だか申し訳なってきた。
母も父と私の話を静かに聞いていた。

一瞬、静寂が訪れた。
ずっと賑やかだったはずなのに、一気に温度が下がってしまったのかのよう。

そんな空間に電話が鳴り響いた。
母親が受話器を上げ

「はい、柴崎ですが」

小声で私が
「兄貴かな?」
というと、美香さんが
「さっきメールが来てた、あと20分で着くって書いてあったから違うんじゃないかなぁ」

何だか電話に出た母のテンションが高すぎじゃない?
ちょっと美香さんと話をしていたうちに話が盛り上がってるし。
ひと際大きな声で
「あっらーやだわ。そうそう気分だけは若いのよ。今度遊びにいっらしゃいな、そうね、今かわるわ」
人ごとだと思って、目の前にあるフライドポテトを摘まんでいたら
「純、電話よ。岸本さんちのりょうちゃんから」
満面の笑みを浮かべて受話器を差し出していた。

りょうちゃんって、あのりょうちゃん?
頭に”?”マークをいっぱい浮かべて受話器を受け取った。

「もしもし」
恐る恐る出た私と対照的に、母に負けないくらいテンションの高い亮二がいた。

「おーっ、ほんとに帰ってきてたんだ。久し振りだな、純。お前の母ちゃんも変わってねえな、びっくりしたよ」

「ははは……」
乾いた笑い、ってか内心あんたのがびっくりだよと。

「いきなりで何なんだが、お前明日の夜暇か?」

暇かって聞かれても、一体……

「ん? どうだろ?」


「 何だよ、歯切れが悪いなぁ。久し振りに地元の奴で呑もうって言ってるんだけどお前もこいよ。綾子や恵理子とかも来るぞ」

すると近くで聞き耳を立てていた母さんから

「暇だよー子供達は私が見ているから、たまにはいいじゃない、行ってらっしゃい」
その声は私が何も言わなくてもしっかり亮二の耳に入ったようで。

「やっぱいいな純の母ちゃん。じゃあ決まりって事で。明日駅前の”ミモザ”に7時集合だから。そうそう、アラケンが今回の発起人だから。あいつが教えてくれたんだよ、純が実家に帰ってくること。世間って狭いよなぁ。アラケンが担任だって?」

一人喋っている亮二。っていうか中学の別れた2人がまだ繋がってるって不思議な感じがした。

「亮二ってアラケンと仲良かったっけ?」
初めて私から話を振った。

「あ、高校からかな。お互い中学の時は全くだったけれど、高校入って同じクラスだったんだよ、俺ら。話した事なかったっけ?」

話した事無かったっけ? って。私と亮二だって、高校の頃からなんて、数える程しか話してないだろ。一人突っ込みをしていた。