贅沢な願い事

お前しかいない

俺の隣に香也がいる。

「本当に久し振りだよね。中学卒業してから1回も会わないなんて、もしかして私嫌われてる?とか思ったりしたことあったんだよ。」

中学を卒業する時は同じだった目線が、今は俺が見下げるようで、はにかんだ笑みが俺の鼓動を早くする。
お前に嫌われることはあっても(って考えたくもないけれど)お前を嫌うなんてそんなことはありえないから。そう言いたいのをグッと堪えて

「そんなわけないだろ。タイミングじゃねえの?」
ぶっきら棒に答えることしか出来なかった。
徐々にだ。今まで待ったんだ、焦ることはない。

香也の会社は2つ先だ。
この満員電車では、ろくな話も出来ないかもしれないが……
一緒に乗ればそれは、香也が俺に密着するわけで。
とんでもなく久し振りに会ったというのに、こんなに美味しい特典が待っているなんて。
香也に会うことでいっぱいいっぱいだった俺には考え付かなかった。
産まれて初めて、満員電車に感謝した。
大丈夫か俺?

ブルブルと胸が震えた。
震えた?
それは、俺の携帯だった。
電車はもうホームに入ってきた。
見るとそれは会社からで、無視できねえよな。

軽く香也を制止し、電話に出た。
後で掛けなおす。
そういおうと思ったのに――。

「はい、徳山です。」
そう言うと同時に、時間は待ってくれることなく、電車は扉を開いてしまった。

香也が”またね”と手を振って電車に乗っていくのを唖然と見ている俺。
おいって、そりゃあねえよ。
上手い具合に、香也の隣には女が乗っていったのだが、おいそこのおっさん!それ以上前に進むんじゃねえよ。
俺の頭はパニックだ。

「もしもし、徳山さん。聞いてますか?」

聞きたくないです。
そう言えたらどんなにいい事か。

「はい聞えます。」

やっぱりというか、なんというかそれは大した用事でも何でもなくて。
出社してからでもいいだろっ。
思いっきり叫んでやろうかと思った。

電話を終え、電車を待つ間、暫しの回想。
確信した。
やっぱり俺には香也しかいないと。
自分でもどうかしてると思っている。
10年も会わなかったのに、想いが変わらないなんて。
一目惚れでもない、同じクラスメートだったあいつを。

久し振りに触れた右手をぎゅっと握った。
これは始まりなんだ、この手であいつを掴むのだと。
そう考えていたら、気分も上昇してきた。
これくらいが良かったのかもしれない。
まだ次があるからな。

そうだ、あいつらにも報告入れとくか。
美佐子にはお礼だな。
あいつがいなかったら、この計画は上手くいかなかっただろうから
いつものように一言

ありがとな

と入れてみた。
何だか感謝が足りないような気がして、使ったことのない機能を出してみた。
美佐子のメールに良くあるそれを。
どれどれ?こう押すと、成る程案外簡単だ。
これはどうだ?これは?試しに感謝と喜びを表せそうな絵文字を入れてみる。

並んだ絵文字を見つめ、やっぱり俺には向いてないなと消去しようと親指をボタンに掛けると、タイミング悪くメールの着信がって。
送っちゃったよ。
メール送信中の文字が点滅していた。
中止のボタンを押す間もなく、新たな送信完了の文字。

やっちまった

諸悪の根源メールは大地からだった。

どうした?会えたか?

今、報告するところだったよ。
心の中で悪態を付きながらも

いろいろとありがとな。話せたよ

と送った。
勿論、絵文字は封印だ。
多分一生ないと思う。